ゲーム理論の基本要素:プレイヤー、戦略、利得を人間関係で考える
私たちの日常生活は、様々な人との関わり合いの中で成り立っています。友人との会話、職場の同僚との協力、家族との話し合いなど、私たちは常に他者との相互作用の中で行動や意思決定を行っています。
こうした人間関係における、私たちの選択や行動、そしてその結果生まれる状況は、一見複雑で予測不能に思えるかもしれません。しかし、このような相互作用の構造をシンプルに捉え、分析するための強力な考え方があります。それが「ゲーム理論」です。
ゲーム理論は、数学的なアプローチを用いて、複数の意思決定者が存在する状況(これを「ゲーム」と呼びます)における、それぞれの意思決定や行動、そしてその結果を分析する学問分野です。ここでは、そのゲーム理論を理解する上で最も基本となる3つの要素、「プレイヤー」「戦略」「利得」について、難しい数式を使わずに、人間関係の例を通して分かりやすくご説明します。
ゲーム理論における「プレイヤー」とは
ゲーム理論における「プレイヤー」とは、意思決定を行い、特定の行動を選択する主体を指します。これは文字通りゲームに参加する人を意味する場合もありますが、もっと広義には、組織や国家、さらには生物の遺伝子といったものまでプレイヤーになり得ます。
人間関係において、プレイヤーは文字通り関係を持つ個々人です。例えば、あなたが友人との間で何かを決めようとしている状況を考えてみましょう。この場合、あなたと友人がそれぞれプレイヤーとなります。職場のチームであれば、チームメンバー一人ひとりがプレイヤーですし、部署全体の意思決定であれば、各部署の代表や、場合によっては部署そのものがプレイヤーとみなされることもあります。
ポイントは、プレイヤーは自身の目的を持っており、その目的に沿って行動を選択する主体であるということです。そして、それぞれのプレイヤーがどのような目的を持っているかを理解することが、状況を分析する第一歩となります。
「戦略」がプレイヤーの行動を決める
プレイヤーが意思決定を行う際、どのような行動を選択するか、その選択肢の集合を「戦略」と呼びます。ゲーム理論では、プレイヤーは自身の利得を最大化(あるいは損失を最小化)するために、利用可能な戦略の中から最適なものを選ぶと考えます。
人間関係における戦略とは、あなたがその状況で取りうる行動や、相手への働きかけ方です。例えば、職場で同僚に協力を依頼したいとき、「丁寧に依頼する」「協力を半ば強制する」「自分だけで完遂しようとする」などが考えられる戦略となり得ます。友人とのランチの場所を決める場合、「自分の希望を強く主張する」「相手の希望に合わせる」「提案せず相手に任せる」なども戦略と言えるでしょう。
ゲーム理論では、プレイヤーは自分がどのような戦略を取るかだけでなく、相手がどのような戦略を取る可能性があるかについても考慮に入れて、自身の戦略を決定すると考えます。
「利得」が選択の結果を示す
ゲーム理論において「利得」とは、プレイヤーが特定の戦略を選択し、相手もまた何らかの戦略を選択した結果として、そのプレイヤーが得る結果や報酬を数値化したものです。利得は、利益や損失、満足度、時間、評判など、プレイヤーにとって価値のあるあらゆるものを反映し得ます。
人間関係における利得は、より抽象的で数値化しにくいものも含まれます。例えば、同僚に丁寧に協力を依頼し、無事プロジェクトが成功した場合、あなたの利得は「プロジェクトの成功」「同僚との良好な関係維持」「達成感」などが考えられます。一方、協力を半ば強制した場合、プロジェクトは成功するかもしれませんが、「同僚からの信頼失墜」「協力関係の悪化」といったマイナスの利得(損失)を被る可能性もあります。
ゲーム理論では、これらの様々な結果を比較可能にするために、仮に数値で表現することがあります。しかし、その数値はあくまで結果の良し悪しを比較するためのツールであり、必ずしも金銭的な価値や物理的な量である必要はありません。重要なのは、プレイヤーがそれぞれの結果に対してどのような価値を感じるか、それを相対的に評価することです。
まとめ
ゲーム理論の最も基本的な要素である「プレイヤー」「戦略」「利得」は、私たちの日常的な人間関係を分析する上で非常に役立つ視点を提供してくれます。
誰が意思決定を行っているのか(プレイヤー)、それぞれどのような行動の選択肢を持っているのか(戦略)、そしてそれぞれの行動の組み合わせによってどのような結果が得られるのか、その結果をプレイヤーがどう評価するのか(利得)。
これらの要素を意識することで、これまで漠然と捉えていた人間関係における相互作用の構造が、より明確に見えてくることがあります。なぜあの人はそのような行動をとったのか、自分はどうすれば望ましい結果を得られるのか、といったことを考えるための基礎となる考え方です。
もちろん、実際の人間関係はこれらの要素だけでは語り尽くせない複雑さを持っています。しかし、ゲーム理論の基本的な考え方を適用することで、その複雑な様相の中に潜む合理性や、時には非合理性のパターンを見出す糸口が得られることでしょう。
今後の記事では、これらの基本要素がどのように組み合わされて様々な「ゲーム」のモデルとなり、人間関係の様々な状況をどのように読み解けるのかについて、さらに掘り下げてご紹介していく予定です。